『ザ・サークル』 − GoogleとFacebookの先にあるユートピアとディストピア

ザ・サークル は先に小説を読んでいて、最近やっと配信で映画を見ることができた。映画も悪くはないんだけど、小説の方が問題の描き方が鋭くて良かったかな。

ザ・サークル』で描かれているオープンな世界は隠蔽や改竄が蔓延っている日本とは対極にあるんだけど、別の意味でディストピア的になっている。これについて、考えたことを書いていきます。

全てをオープンにしていくザ・サークルの行動原理

ザ・サークルは、現実世界に置き換えると Google + Facebook のような企業で、検索エンジンSNSを持っていて、ユーザーのID(個人情報)を押さえている。そして、現実のいろいろな情報をオープンにすることで、世界をより良くしていくという理想を持っている。

世界をオープンにするメリット

オープンにしていくことのメリットは具体的に描かかれていて、例えば次のようなもの。

透明性(トランスパレンシー)プログラム

サントス議員は、自分の活動全て − すべての会話、すべての会議、就寝までの一刻一刻 − を誰もが視聴可能にすることで、政治に透明性を持ち込もうとしている。

チャイルド・セーフティ・プログラム

子供の誘拐・殺害を防ぐために、子供の骨にチップを埋め込んで常に追跡できるようにするプロジェクト。 フランシスは兄弟が誘拐されて殺されたことから、このプロジェクトに熱意を持って取り組んでいる。

シーチェンジ

もともとはサーファーが波の状態を知ることができるようにするために小型・高性能のカメラを海岸に設置するプロジェクト。誰も気づかないようにカメラを置くことができて、カメラの映像は誰もが見れるようになるため、実際には監視カメラとしても機能する。 ベイリーは、息子が脳性麻痺で簡単に外出することができないことから、世界中の体験を映像化して誰もがアクセスできるようにすることに熱意を持って取り組んでいる。

これらは、フィクションなので誇張されてはいるけれど、現実世界でも「みまもりケータイ」や「JR東日本が全車両に防犯カメラを設置する」といった形で実現していることでもある。

全てが見られていれば犯罪を犯さない?

メイは無断でカヤックを使ってしまったことがシーチェンジによってバレてしまうんだけど、そこで「常に誰かに見られている前提で行動すれば、誰もが犯罪を犯さないようになるはず」という命題が登場する。

これは一見テクノロジーの進歩によって達成したように見えるけれど「他者の視点を意識することで倫理的に行動する」という考え方は、例えばカントの「なんじの意志の格律がつねに同時に普遍的立法の原理として妥当するように行為せよ」という道徳法則*1に通じる。

おそらく、オープンにすることで世の中を良くしていくという考え方の根元には西洋哲学の思想があって、この部分は日本人には直感的には理解できないところではないかと思う。

ザ・サークルのビジネスモデル

ザ・サークルのメインビジネスは広告事業である。メイの最初の仕事は広告主向けのサポートで、小説中では「コンバージョンレート」といったWeb広告の用語が重要な役割を果たしている。これが、映画だと小型カメラのような映像的に見栄えのする技術に目がいってしまうのだけど。

GoogleFacebook は世界最大級の広告代理店

広告は、Google の売り上げの88%*2Facebook の売り上げの98%*3を占める。事業形態の違いから広告代理店と比較されることはないけれども、実質的には世界最大級の広告事業者として機能している。

何のためにアテンションを集めるのか?

透明化して全行動をオープンにしたメイは、世界中から視聴者を集める。その集めた視聴者は広告によってマネタイズされるのであって、お金のために自分をオープンにしていくことは「街中で裸になれば注目を浴びて投げ銭を貰えるよ!」ということに等しい。

誰からお金を貰ってビジネスをするのか?

古くは Microsoft、最近では Apple も悪の帝国と言われることが多いけれども、AppleMicrosoftGoogleFacebook のビジネスモデルは「誰からお金を貰うのか?」という点で根本的に異なっている。前者は、曲がりなりにも製品やサービスの提供を受けた側(消費者など)から直接お金を貰うのに対して、後者は消費者ではなく広告主からお金を受け取るから、必然的に広告主の方を向いてビジネスをすることになる。

この部分は明確には描かれてはいないけれど『ザ・サークル』での完全に透明化した世界がビジネス的には何によって支えられているのか、どんな資本主義的動機によって駆動されているのか、を考える上で重要だと思う。

ザ・サークル

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