iPhoneがキャズムを超えるとき

新年なので、未来予想のようなことをしてみました。
東京で電車に乗っているとiPhoneを使っている人をよく見かけるので、普及しつつあるような気がするのですが、まだそれほど一般的とも思えないので「iPhoneがどうキャズムを超えるか?」というのを考えてみました。

iPhoneはふつうに電話として使いやすい

仕事で使っている携帯(日本製)にはスピーカーから音声を出してハンズフリーで話せる機能があります。これは、急に電話会議に参加しなければいけないときに、Polycomのような電話会議用の機器がなくても何とか参加できるので、とても便利です。でも、その機能はマニュアルで見つけるまで気づかなかったんです。今でも、使うときには「どのボタンを押すんだっけ?」という会話が飛び交います。
iPhoneにも同じ機能があるのですが、こちらは自然に使えます。通話状態になるとスピーカーボタンが表示されて、それを押せばスピーカーから音声が出るんだな、というのが直感的に分かります。
これだけで、iPhoneの電話機能が使いやすい、と言い切ってしまうのは極論ですが、それ以外のことを含めて、iPhoneユーザビリティというのは、らくらくホンとしても通用するレベルじゃないかと思っています。

iPhoneは暗黙のうちに「インターネットを使いこなせること」を要求する

でも、自分の親にiPhoneを薦めるかというと、そうはしません。なぜなら、iPhoneは最低でも 980円 + 4410円 = 5390円がかかってしまう端末だから。
もちろんWiFiを使うようにして、3G通信をなるべく使わないようにすれば節約できますけど、それを(自分の親みたいな)ふつうのユーザにやってもらうのは無理だと思うんですよね。ほとんどのユーザは気づかないうちにデータ定額いっぱいまで使ってしまうと思います。
だから、iPhoneが一般向きではないというのは、iPhoneの使いやすさ云々ではなくて、暗黙の了解として「携帯からインターネットを使いこなせること」、言い換えれば「データ定額に月々4410円以上の価値を見いだせること」を求められるところにあると思います。

それまでパケホーダイを使っていなかったユーザにインターネットを使わせる端末

自分は、iPhoneを使うまで月額の携帯代は2000円〜3000円くらいだったと思います。もちろんパケホーダイには入っていませんでしたし、そこまでして携帯でインターネットを使う意味を感じませんでした。それが、iPhoneを使うようになって、iPhoneからインターネットにアクセスするのが普通になって、家の中でもノートPCのかわりにiPhoneを使うことが増えています。そして、月々、最低5390円の携帯代を払うようになっています。
だから、iPhoneは携帯からインターネットにアクセスすることを普通にした点で画期的だと思います。
そしてこれは、

  • キャリアにとってはデータARPUを稼げる
  • Appleにとっては高価格で端末を売れる

という点で利益を生み出しています。

インフラがアプリケーションに追いついていない

ところで、今のiPhoneへの不満の多くはソフトバンクの3G網(アメリカだったらAT&Tの3G網)に対して向けられています。つまり、ユーザが使いたいアプリケーション(YouTubeなどのインターネット全般のことでAppStoreのアプリ限定ではない)に見合うインフラが整備されていない。これは、日本のキャリアが3G網に見合うアプリケーション(着うたなど)を一生懸命開発して3G網をユーザに使ってもらおうとしていたのとは対照的です。
インターネットという十分すぎるほどのアプリケーションがあって、Appleはそこに「簡単に」アクセスできる端末を開発した。それによって、インフラが不足するようになったのです。
インフラが不足しているという状況は次のようなことからも言えると思います。

  • 3G網ではSkypeのようなIP電話の使用が認められていない
  • 3G網ではYouTubeビットレートに制限がある
  • 3G網ではiTSで音楽を購入できない
  • 3G網ではAppStoreでダウンロードできるサイズに制限がある

これらは、インフラが整備されて解消されていく可能性があります(どれだけ先になるかはわかりませんが...)。そして、そのインフラ整備に当てる資金源がiPhoneなどのデータ定額料金なので、各キャリアはiPhone獲得に血眼になっているという側面があるのではないでしょうか。

ブロードバンドと同じように普及する

この、アプリケーションにインフラが追いついていない状況というのは、少し前のブロードバンドが普及する前の状況に似ています。自分の場合、最初にインターネットに接続は56Kbpsのモデム、それがISDNになって、ADSLFTTHと進化していったのですが、当時はここまでブロードバンド網が急速に普及するとは予想できませんでした。
同じようなことが今後、携帯でのデータ通信についても起こるのではないかと思います。技術的な課題があっても、驚くような速さで乗り越えてしまうような気がします。

通話がアプリケーションの1つになってしまう

今、ADSLが3000円〜5000円、FTTHが5000円〜6000円くらいでしょうか。ブロードバンド網への接続はそれほど安くはありません。それが普及した理由としては、電話やFAXなどもIP上に載ってしまった、ということもあります。
今後、インフラが整備されても、それによってデータ定額料金が劇的に下がるとは思えません。せいぜい「データ帯域が制限されたプランがやや低価格で提供される」ことくらいでしょうか。iPhoneのデータ定額はキャリアにとっても金のなる木でそれを簡単に手放すようには思えないのです。
一方で、インフラが整備されて通信速度が上がると、今のように「3G網でSkypeのようなIP電話が認められない」ことは理不尽な制約になってきます。つまり、固定電話で起こっているように通話がIP上のアプリケーションの1つになってしまうことが、携帯でも起こるのではないかと予想されます。

どうやってキャズムを超えるか?

通話料が込みになったとして、月々4000円〜5000円を携帯のインターネット接続に払うことが一般的になるか?というと微妙です。少なくとも、家と会社(or 学校)にブロードバンドが整備されている状況で、あえて携帯でインターネットを使う理由はそれほど感じられません。ただ...携帯電話を考えてみると、家と会社(or 学校)に固定電話がある状況でここまで普及したわけです。出先でのインターネットアクセスがクリティカルに仕事の効率や生産性に影響したり、遊びで必要になったら...携帯と同じようにiPhone(あるいはAndroid端末?)が普及するのではないかと思います。

そのときには、部分的に、家のインターネットを置き換える、あるいはノートPCを置き換えるパーソナルなインターネット端末として普及するような気がします。